Burger-JA-Top

By Koutetsu An

ハンバーガーに込めた願い

キーーーーーーーーン!朝、まるでジェット機が自分の真上を飛んでいる様な音と共に目を覚ます。

「あ、音大きかった?ごめんごめん」と、ニコニコしながら寝起きの僕にこう話しかけてくるのは、僕と同じ航空大学に通う友人でもあり、大学の寮の部屋をシェアしているルームメートでもある。そう、これは僕がまだアリゾナの航空大学に通っていた頃の話。

「何してるの?っていうか、この音何?」と、爆音と共に起こされて少し機嫌が悪い僕は友人に聞く。「今さ、コンピューターのフライトシュミレーターゲームで、シカゴからロンドンまで飛んでるんだ!」朝から迷惑な話・・・

「ふーん。お前、本当にそのゲーム好きだなぁ。ま、楽しんでよ。俺は、今から授業だから」と、言いながら僕はベッドから起きて、授業に行く支度をする。

「今日、最後の授業終わるの何時?」

「うーん、夕方。5時位」

「じゃぁ、授業から戻ったらハンバーガーでも食べに行こうよ!」

「うん、いいよ」と、言って僕は足早に部屋を出る。

通っていたEmbry-Riddle航空大学は、アリゾナ州フェニックスから2時間。セドナからは1時間ちょいの距離にあった。

当時、Embry-Riddleが双発機の訓練に使用していたパイパー社製のPA-44。

その後、数時間に及ぶ授業で脳ミソの隅々までフル回転させられた僕は、最後の力を振り絞って自分の寮の部屋に戻る。しかし、そんな疲れも一瞬にして吹き飛ぶくらいの光景を僕はこれから目の当たりにする。

「ただいま~」と言いながら自分の部屋に戻ると、ルームメートである友人が、恐らくトイレで席を外したくらいで他には殆ど動いていないのだろう、朝僕が部屋を出た時と同じヨレヨレのパジャマを着て、同じ椅子に同じ体制で座りながらコンピューターのスクリーンと睨めっこをしている。

「あれ?何してるの?」と、聞いてみる。

「ん?朝やってたフライトシュミレーターのゲームだよ」

「は?まだやってるの?」

「うん、でもちょっと静かにしてて。もうすぐロンドンに着陸するから集中しなくちゃ」

「まさか、本当にリアルタイムでシカゴからロンドンまでやってるの?」

「うん!」

「え”・・・それって何時間かかってるの?」

「うーん、ちゃんとは知らないけど、もうかれこれ8時間位はやってるんじゃないかな?」特に罪の意識や罪悪感は無いらしい。

「っていうか、ゲームなんだから離陸してから着陸までの部分は早送りすればいいじゃん・・・」

「うん、でもそれしちゃうと雰囲気でないじゃん」

「・・・・」マニアとは恐ろしい。僕が数時間にわたって授業で脳ミソを酷使させられている間、この友人はコンピュータースクリーンが映し出す、代わり映えのしない空と海の景色を8時間もずっと見ていたのだ。その強烈なこだわりを他の何かに使えなかったのだろうか?と思いつつも、この飛行機が大好きでしょうがない友人と僕は約束通り、朝話していたハンバーガー屋さんに向かう。

「僕は2番のセットとコーラ。ポテトとコーラはLサイズで」ファーストフードのハンバーガー屋さんに着くや否やドライブスルーの窓口で嬉しそうに注文をする友人。

「ここのハンバーガーは他の店と比べて野菜が新鮮なんだぜ!」まるで、自分がこのお店の店長にでもなったかのように、ピュアな眼差しでここのハンバーガーの宣伝をしてくる。

「どうする?空港に持って行く?」と聞いてくる友人。この頃うちらは、テイクアウトした食事を空港に持って行って、飛行機を見たり話をしたりしながら食べるというのがお決まりのパターンだった。

「そうだね」と彼に伝えて夜の空港に向かって車を走らせる。

「やっぱり、夜の空港の光って綺麗だよな」車を空港の滑走路の脇に止めて、買ってきたハンバーガーを食べ始めながら友人に言う。

「あぁ、クリスマスツリーみたいだ・・・ そう言えば、日本にはクリスマスってあるの?」

「うん、一応あるよ。でも、意味合いがアメリカとは大分違うけどね。家族と過ごすっていうよりも、若い人たちや恋人たちの為って感じかな」

「ふーん、俺もいつか日本に行ってみたいな」

「うん、絶対においでよ」

「その時は、もうお互い世界中飛んでるかな~」

「そうだな~。何年かかるんだろうな」

「俺はその頃までには戦闘機を飛ばしていたいな」僕は、彼が戦闘機のパイロットになりたかったと知ったのはこの時が初めてだった。

「へぇ~、軍関係に興味があったんだ?」

「うん、いつか絶対に腕の良い戦闘機パイロットになってみせるよ」

「そっか・・・でも、それってやっぱり物を破壊したり、人の命を奪ったりもするのかな?」

「あぁ、でも誰かがこの国を守らないといけないんだ」

「そう・・・ね」

「お前は反対?」

「うーん・・・正直、賛成はしかねるかなぁ」

「今、うちらがここでこうして呑気にハンバーガーを食べていられるのだって、何処かの誰かがうちらを守ってくれているから出来る事だろ。俺はその『誰か』になりたいんだ」

「うーん・・・」

「ま、平和な日本で生まれ育ったお前にはわからないかもな」正直、日本で生まれ育ったからこそ、感じる事はあったが、この時は友人の将来についての話をしていたので、あえてそれは言わないでおいた。

「そうかもね。そろそろ、寮に帰ろうか?」正直、何故か発生してしまった友人との距離をこれ以上広げたくなくて言った一言だった。

「そうだな」と、友人が言うと僕らの寮を目指してアリゾナの暗い夜道に車を走らせる。

Embry-Riddleに飾られていた、NASAが実際に使用していたロッキード社製のF104N。

訓練機から見る夕日。

それから、たった数日後のことだった。

世界中を震撼させた、僕と友人を繋ぐ大好きな飛行機を使ったテロ事件が起きたのは。朝、目を覚ますと僕の友人はテレビから流れるニュースを呆然と見つめ、何とも言えない顔で、また自信に満ち溢れて僕にこう言った。

「こういう事が起こるから、守っていく人間が必要なんだ。だから、俺はお前にどう思われようと、俺の愛する人たちとこの国を守っていく。例えお前が賛成してくれなくても、お前が俺の大切な人の一人に変わりはない」と。急に彼が同じ空間からいなくなった気がした。彼の視線はニュースを観ているようで、どこかその先の遠い場所を見ていた。まるで、昨日まで一緒に楽しくハンバーガーを食べていたのが嘘のように。

こんな会話をしてから、気がつけば15年程の月日が流れていた。

その間、本当に色々なことがあった。お互い、自分たちなりに必死に考えて、悩んで、時にはぶつかり合って、一歩一歩自分たちの夢の旅路を歩いてきた。僕はずっと夢見てきた国際線のパイロットに、そして友人は立派な戦闘機のパイロットになっていた。

お互いに夢を叶えてから数年がたったある日だった。

僕はその友人と、たまたま仕事で同じ街にいるとわかり、久しぶりに再会を果たして食事をしていた。お互い学生の頃は夢や「未来」についてよく語り明かしたが、今では「過去」のくだらない話や、お互いの「現在」、そして近い「未来」と3次元の話が出来る。彼が人生でどんな選択をしようとも、いくつもの次元で人生が交わり合える人はそういるものではない。

そんな彼と色々な話で散々盛り上がって笑って、レストランを出ようとお互い席を立った時友人がこう言ってきた。

「俺、軍隊を辞めて民間に移ろうと思うんだ。どう思う?」

「いいじゃん。でも、どうして辞めようと思ったの?」と、彼に聞いてみる。

「あの時、大切な人たちを守るって言ったの覚えてる?」

「うん」

「確かに、大切な人は守れたかもしれないけど、自分の軍の仲間を亡くすのに少し疲れたかな・・・」

「お前が自分で決めたのならそれでいいんじゃない?」正直、彼が軍を辞めるのは大賛成だったが、今までの彼の選択を否定はしたくなかったので、あえてそういう言い方はしないでおいた。

「そっか。今度、またハンバーガーでも食べに行こう」と、友人。昔、一緒にハンバーガーを食べていた時の彼が戻ってきた気がした。

「必ず」と、言いながらも僕は心の中では軽く「おかえり」と言って、ここから再び始まるお互いの新たな旅路の前にハグをして別れる。

こんな会話をしてからそんなに時が経つ事もなく、僕がいつも通り空港のロビーを歩いていた時だった。何処からともなくテレビで流れていたニュースが聞こえてくる。

「本日、大統領が戦闘地域からの軍の撤退を発表しました」

「守る」必要のない、平和な世界の実現に心から願いを込めて。

航空祭でのブルーエンジェルズ